長野県下伊那郡喬木村富田では、地区を上と下に分けて2月9日の夜に事念仏≠ニ言われる行事が行なわれる。それぞれに宿の家が定められ、その当番の家は家並みに順に送られてゆく。それぞれに100戸以上あるため、一生に一度回ってくるか来ないかという当番である。当番が回ってくるのを見越して家を普請することもあるという。
午後7時ころに当番の家に地区の人たちが集まってくる。大人は近所の人たちが主で、多くは子どもたちである。宿の主人の挨拶があると、念仏が始まる。事の日に行なわれることから「事」がつくのだろう。10メートル以上という数珠に集まった人たちが取り付き、念仏にあわせて数珠を回してゆく。中にある大きな珠が回ってくると、額にその珠を当てて一年の無事を念ずるのだ。ころあいを見計らって15分ほどで念仏は終わる。すると宿での直らいとなる。
翌10日の朝方、各家ごとに「御事送りの神」などの字が書かれた旗で家の中を祓い、風の神送りをする。この際の旗は、最寄の道まで持ってゆき、道端に立てておくと、当番の人たちによって集められて、最後は富田沢川の下久堅境に捨てられる。
両者の行事は別の意味で始まったものなのだろうが、地区では両者は関連したかたちで続けられている。
「歳時記」においてもこのことは触れているので参考にされたい。
撮影したのは、平成2年2月9〜10日である。 |